読書日記

しがない元・情報大学院生女子、現・企業研究者の日記

村田沙耶香「コンビニ人間」

 2017/12/24 読了

コンビニ人間

コンビニ人間

 

 

この本も大学の一般書コーナーより.2016年秋の芥川賞受賞作で,作者自身もコンビニで働いている.そのため,コンビニ勤務に関するやりとりが多くメディアでも多く取り上げられた方の小説家である.(「スクラップビルド」の羽田圭介のメディア露出は劣るが)

まず感じたのは音に関する記述が豊かなことである.しかも冒頭から音,音,音.

この描画を読んだときから,ふとコンビニで耳を澄ませるようになってしまった.

 

 コンビニエンスストアは、音で満ちている。客が入ってくるチャイムの音に、店内を流れる有線放送で新商品を宣伝するアイドルの越え。店員の掛け声に、バーコードをスキャンする音。かごに物を入れる音、パンの袋が握られる音に、店内を歩き回るヒールの音。全てが混ざり合い、「コンビニの音」になって、私の鼓膜にずっと触れている。

たしかにそうだ.客としてコンビニに入る際,店内にいる時間が5分かそこらである.が,コンビニ店員はシフト時間中ずっとその音を聞いているのだ.アイドルラジオ広告も,飲み物のローラーの音も.どの行動をしても音が発生するのだから,その音がシグナルとなって,行動が紐付けられるのは当然である.

主人公が18歳でコンビニ店員のアルバイトを始めたときの記述の表現もなかなか不思議な表現をしていて,印象にのこった.

 

そのとき、私は、初めて、世界の部品になることができたのだった。私は、今、自分が生まれたと思った。世界の正常な部品としての私が、この日、確かに誕生したのだった。

 

多くの人が自然と手に入れて身につけていく動作やしぐさやヒトとの距離感は,教えてはくれない.

 たしかに何が普通なのかなんてだれも教えてはくれない.人それぞれが違う普通を最適化されて,画一化されたものがコンビニの接客マニュアルなのかもしれない.

 

普通の人間っていうのはね、普通じゃない人間を裁判するのが趣味なんですよ。でもね、僕を追い出したら、ますます皆はあなたを裁く。だからあなたは僕を飼いつづけるしかないんだ。(p115)

 
悪口や噂話をしているときは人はそういう考えのもとで行っているのだろ思う.そうやって社会に最適化されないといけない部分もあるのだけれども,異常検知みたいにすぐはねてしまうのはあまり気が進まない.自分もふくめどんな人でも,何かの基準では異質なものになると思う.だから批判するでもなく,過度に優遇するわけでもなく,ただただ中立の立場をとりたいとおもった.あくまでも理想論ではあるが.

 

最後、同居人に促されるまま契約社員の面接を受けにいくが,主人公は結局コンビニへと呼び戻されてしまう.「コンビニの声」が聞こえるくらいにひとつひとつの音や陳列や店員の状況から,コンビニが何をしてほしいかまでわかるという「コンビニ人間」となる.

 

私はふと、さっき出てきたコンビニの窓ガラスに映る自分の姿を眺めた。この手も足も、コンビニのために存在していると思うと、ガラスの中の自分が、初めて、意味のある生き物に思えた。(p151)