読書日記

しがない元・情報大学院生女子、現・企業研究者の日記

暗号解読(上)/サイモンシン著 青木薫訳

 

暗号解読〈上〉 (新潮文庫)

暗号解読〈上〉 (新潮文庫)

 

 

 

久々に本を読んだ。11月はいろいろばたばたで、わたしは断るということを学ぶべきだと思った。授業で暗号解読をする課題が出た。他の授業で青木薫さんの訳が素晴らしいと賞賛していたので、読みたくなって、研究室の本棚を探した。案の定あったので、こっそり借りてきた。

 
この本はこれまでの暗号、そしてその解読の歴史について著したものだ。古代から暗号は戦争によく使われていた。なんといって第二次世界大戦で活躍した解読不可能だと考えられていた、ドイツのエニグマ暗号機の話。エニグマ暗号機を作った人もすごいけど、その解読を試みたイギリス人のチューリングがすごい。この人に関しては去年映画化された。イミテーションゲームという映画だ。
 チューリングエニグマ暗号機を解読したことは名誉なことであるが、長年秘密にされていた。理由は二つ。エニグマ暗号機を解読したことがドイツに漏れると、これまでの努力が水の泡になること。これは容易に想像がつく。もう一つは、彼が同性愛者であったからである。同性愛者であるという事は、キリスト教の教義に反しているらしい。イギリス国家もキリスト教を国の宗教としている限り、チューリングの同性愛を見過ごす事が出来なかったのである。日本は政教分離で、その考えが薄いのでびっくりした。この本には彼が暗号解読しなければ、第二次世界大戦は1945年ではなく1948年に終わっただろうとの記述がある。暗号を解読しただけでなく命を救ったのだ。同性愛者だと政府に露見された結果、ホルモン剤の投与が義務付けられる。当時、同性愛者がホルモン剤の投与によってなおると考えられたの不思議。そういう性質をもって生まれたわけだから、病気ではないのに。正常なホルモン分泌をしている体にホルモン剤を打ったら、もうバランスが壊れて、ものを考える事ができなくなってしまう。それは暗号解読者としては致命的な事であるのは自明である。彼はよく歌ってたという白雪姫の一節をなぞらえたのか、青酸カリを溶かした液体にりんごを付けて、そのりんごをかじって自殺した。最近LGBTとかすごく話題になっているが、そういう性質を持った人々が死に追いやられる時代があるなんて知らなかった。
しかし、青木薫さんの訳は美しい。単行本版の装丁がとても好きなので手元に置いておきたい。下巻につづく。

 

暗号解読―ロゼッタストーンから量子暗号まで

暗号解読―ロゼッタストーンから量子暗号まで

 

 

 
参考
「こんどうしげるの生命科学の明日はどっちだ 第13回:Who Killed Turing ? 誰がチューリングを殺したのか」