読書日記

しがない元・情報大学院生女子、現・企業研究者の日記

サマーウォーズに対する疑問と考察

なんとなく、細田守監督の『サマーウォーズ』を熱く語ろうと思った。理由は、この作品はどこで誰と見たのか、とても覚えている映画だったからだ。高校一年生の夏、当時所属していた文芸部の先輩から招待券をいただいて、文芸部の友達4人と見に行ったからだ。映画もアニメもあまり見ない私にとってこの作品は衝撃的であった。またサマーウォーズについて授業レポートを出したのだが、語りきれなかったからだ。今は高校時代通ったその映画館は潰れてしまった。月日がたつのは早い。
 

 映画『サマーウォーズ』は、細田守による日本のアニメ映画である。2009年8月1日に、全国にて公開された。キャッチコピーは、「これは新しい戦争だ。」(テイザーバージョン)「つながりこそが、ボクらの武器。」(本ポスターバージョン)この映画のあらすじは、「ある日、高校2年生の小磯健二は、憧れの先輩篠原夏希から一緒に夏希の実家に行くという「バイト」に誘われる。実家には夏希の曽祖母陣内栄の90歳の誕生日を祝うために、26人の親族が一堂に集まり、健二はひょんなことから栄のために「夏希の婚約者のふり」をすることになった。(Wikipediaより引用)」というSF作品だ。

 

健二はスーパーコンピューターなのか
夏希先輩に誘われて、東京から長野へ行く間の新幹線が、通路を挟んで隣で、とても話しづらそう。婚約者のふりをしてほしいとお願いされる時に先輩に手を握られて真っ赤になる主人公。目がおどおどとしていて、冒頭からヘタレキャラ満載である。そんな彼がOZのセキュリティーのパスワードを解いてしまう。なんの計算をしているのだろう、と考え調べた。OZからのメールの暗号が、なんとRSA暗号だと知り、健二は一体頭の中で何bitの計算をしているのかと思った。OZのセキュリティーパスワードは2056桁。調べてみると、thlon2.2GHzのPCを連続稼働させて2048bit(10進数で617桁)の因数分解にかかる時間はおおよそ10,000,000,000,000,000年だ。健二は真夜中に月明かりで解いていた、どんな頭をしてるんだ健二。そんな能力あったら数学オリンピックの日本代表になれるぞ健二。また、ずっと朝顔が描かれている。栄おばあちゃんが夏希にあげた浴衣の柄も朝顔。中盤で栄おばあちゃんが亡くなった早朝の庭の朝顔はしぼんでいる。朝顔花言葉は「硬い絆」。なるほど。


ラブマシーン製作者・侘助は本当に悪くないのか
家族や人のつながりについてをテーマにした作品であるが、私が気になったの「ラブマシーンを作った、侘助おじさんが悪いのか」という点である。侘助おじさんは、栄おばあちゃんの夫の隠し子である。そのため、他の親族にも心理的な距離がある。栄おばあちゃんは幼い侘助を引き取り育てた。東大に進学、アメリカに留学、栄おばあちゃんの土地を売却して得た資金で、ハッキングAIの自己開発に勤しんでいた。そのハッキングAIがOZ世界を引っ掻き回す「ラブマシーン」である。このAIは単なるAIではない。学習能力だけではなく、機械に「ものを知りたい」という知識欲を与えたものであった。その技術の実証実験のため、アメリカ軍がOZの世界にラブマシーンを放った、という設定である。ラブマシーンはたった一体で世界中の権限をハッキングし、力を得た。侘助は言う。「俺はただの開発者で、人工知能にあーしろこーしろといった覚えはねぇの!」と言って、家を飛び出していく。侘助がでていってしまった広間で、栄おばあちゃんは「いいかおまえたち、身内がしでかした失態はみんなで片付けるよ!」、と。(栄おばあちゃん、優しいなぁ)果たして、侘助がやったことは、間違いなのだろうか。この授業の14講目で、制御というテーマについて学んだ。そして、柏崎先生の「IPSJ-ONE」の公演を見た。シンギュラリティについて言及していたが、どういう状況になるのかが、全く想像がつかなかった。確証はないがラブマシーンの暴走がそういうことなのかな、と思った。ラブマシーンの暴走、アカウント乗っ取りによって職権乱用をしていく。交通機関のマヒ、誤った救急申請、GPSをいじくったり、水道管の水位変動が起こって、街の水道管が破裂したりと大変。それをいとも簡単にやってしまったラブマシーン。人間はそれを制御するのにあたふたし骨を折る。ノーベルが開発したダイナマイトによって戦争が進んでしまったとか、東日本大震災原発事故といった、人間が制御不可になってしまったとか、技術革新によってこれからも生まれるだろう。自分が生み出したものが引き起こす影響はどこまで開発者が責任を持つべきなんだろうか。話が変わるが、このシーンで自衛隊、消防士、救急隊員、公務員、金髪警察官と、陣内家の公務員割合高すぎやろ、と思う。みんなのために助ける仕事をしろとでも栄おばあちゃんが言ったのだろうか。映画の最後の方のテレビニュースで、侘助は、自分がラブマシーンを開発したと公表した、と流れている。アメリカ軍が実験的に使用したことにも言及し、まるで侘助が混乱の張本人ではないと、テレビキャスターに説明させていた。まさに「情報技術者の社会的責任」だなぁと思った。製作者はどこまで責任を取るべきなのだろう。このニュースキャスターの侘助は悪くないんやで感がすごく嫌だった。どこまで責任があるのか。自分でも、答えが見つからない。winny金子勇氏の無罪判決のこともあるので、はっきり開発者が悪だという気にはなれない。しかし、開発者として、ラブマシーンが暴走し始めた時に、解体作業を行ってたらことが大きくならずに済んだのでは。(それを言ってしまうと、一番の見せ所のこいこい対決場面がなくなってしまい、一番の家族の絆の見せ所が無くなってしまうが。)


夏希はいつ健二を好きになったのだろうか。
夏希は侘助おじさんのことが好きだ。夏希にとって侘助おじさんは初恋の相手でもある。夏希の恋人役・健二の設定は「東大・アメリカ留学帰り」まさに侘助おじさんのことである。数億のアカウントを吸収して、ラスボス化したラブマシーンと、こいこい対決をする。こいこい対決に世界中の協力によって勝つ。OZの守り神が吉祥のレアアイテムを与えたシーンはプリキュア感満載でとても美しく、私は好きだ。アカウント数が足りなくなり絶望的な状況から脱し、こいこい対決に勝った夏希は健二に抱きつく。ちょっとまて、夏希は健二のことが好きだったのか?この抱きつく行為の前までは侘助おじさんに気持ちが向いているような気がした。むしろ侘助おじさんを好きなのを健二に見せつけている。栄おばあちゃんが亡くなったときの「(涙を)止めて、(手を)握って」のセリフは亡くなったことに対する困惑と深い悲しみを表現しているように思うし、恋心を表しているとは言い難い。このラブマシーンに勝ったよやったー!のハグが初めての健二への好意の表れであるように思った。ラストシーンでは、佐久間くんからの電話を夏希が意訳して「帰ってこなくていいって」と健二に言う。おじさんやおばさんに「本当に結婚しちゃえば?」「ほんとうはどうなの?」冷やかされ、健二が「好きです!」と答えると、夏希は「嬉しい」と顔を赤らめ答える。チューをしろと親戚周りに言われた時は、夏希は健二のほっぺにキスをする。この時点で健二のことが好きなのがやっとわかる。どこ侘助から健二へと気持ちが向いたのか。


夏希が健二に対する好意については描写が少ないが、侘助に対する夏希の気持ちの描写が多いことに気づいた。1日目のお昼ご飯を食べている時に侘助がふらりとやってくる。夏希他の親族は嫌悪感をあらわにするが、夏希は侘助に駆け寄り、自然に腕を組んで親しげに話す。健二は「何をやっているんだろう、俺」と嘆く。そして、さまざまな嘘がばれて、侘助の恋心を健二にバラされる。次にキーになるのは、栄おばあちゃんとの薙刀対決。侘助は自分がozの世界を混乱させているハッキングAIの作者だということを明かし、夏希はショックを受ける。栄おばあちゃんは薙刀をブンブン振り回し、侘助に「死ね!」という。そこで侘助はうっかりiphoneを落としてしまう。拾った描写がないので、夏希は後片付けをしている時にiphoneをこっそり回収したのだろう。みんなが片付けをしているというのに縁側で落ち込む夏希。健二はそんな夏希が気になり駆け寄るが「来ないで、いまいっぱいいっぱいだから」と健二を突き放す。夏希は栄おばあちゃんと侘助おじさんの確執を目の当たりにしたことも落ち込む原因になっているかと思った。栄おばあちゃんの「侘助、お腹は空いてないかい」という言葉から、栄おばあちゃんは、本当は侘助を大切にしているけれども、人を困らせるものを作った侘助を暖かく迎えてしまったら、人の役に立てと日頃言っているのもあって、ほかの親族に対しての面目がなくなってしまう。だから大げさに薙刀を振り回したのかと推測した。栄おばあちゃんは良くも悪くも策略家だと思った。そこまでのことは夏希も侘助も他の親族も推し量ることができないわけで。夏希は侘助iphoneを隠し持って部屋に逃げます。そして翌朝、栄おばあちゃんが死ぬ。こう順に追っていくと、こんな状況じゃあ健二に対する恋心などさまざまな感情に埋もれてわからないだろうな、と思う。朝食を食べる陣内家。ここに夏希の姿がない。たぶん部屋で侘助の携帯のロック解除に勤しんでいると思う。栄おばあちゃんの誕生日がパスコードであり、やっとロック解除できな彼女は電話をかけます。話を聞いてと執拗にいう夏希。全く聞く耳をもたない侘助。そんな彼に「何が起こっているかなんにもわからないくせに」と言い放ち、栄おばあちゃんの死を伝えます。高級車をぼろぼろにして帰ってきた侘助の姿に、ひと安心した姿の夏希。ここで侘助に対する夏希の気持ちが好きな人から、家族に成り下がったのではないか。私は、侘助も加えて食事を取るシーンが一番好きだ。不安感をみんなで共有し、うちのご先祖は負け戦でも戦うんだ、とか冗談を言いながら、一体感を高めていく時間を、大量の食事をむしゃむしゃ食べるシーンで表しているからだ。この時点で、侘助も健二も、もう外様ではなくなっている。ここで健二は花札で戦って、アカウントを取り戻すことを提案する。最初のおどおど感はどこにもなくって、頼もしい。それから、一番の見せ場、家族みんなで花札で戦う。健二は最後の暗号を必死に解き、なんとかあかつきが家に直撃することをまぬがれる。

こうして考察と推測(妄想?)をおりまぜて考えてみると、家長の死、陣内家滅亡の一大事の時に、頼もしく作戦を提案し、暗号をといて家族を助けたこと、栄おばあちゃんがなくなるという、自分がとても辛い時に黙ってそばにいてくれて、手を握ってくれたことから、夏希は健二を好きになったのかな、という推論に至った。