待つ/太宰治
生きているのか、死んでいるのか、わからぬような、白昼の夢を見ているような、なんだか頼りない気持になって、駅前の、人の往来の有様も、望遠鏡を逆に覗いたみたいに、小さく遠く思われて、世界がシンとなってしまうのです。ああ、私はいったい、何を待っているのでしょう。ひょっとしたら、私は大変みだらな女なのかも知れない。大戦争がはじまって、何だか不安で、身を粉にして働いて、お役に立ちたいというのは噓で、本当は、そんな立派そうな口実を設けて、自身の軽はずみな空想を実現しようと、何かしら、よい機会をねらっているのかも知れない。ここに、こうして坐って、ぼんやりした顔をしているけれども、胸の中では、不埒な計画がちろちろ燃えているような気もする。Read more at location
生きているのか死んでいるのか〜は電車の中でよく思います。
顔を合せて、お変りありませんか、寒くなりました、などと言いたくもない挨拶を、いい加減に言っていると、なんだか、自分ほどの噓つきが世界中にいないような苦しい気持になって、死にたくなります。Read more at location 12
おべっかを使わずに本心で生きたいです
傷口から人生。 メンヘラが就活して失敗したら生きるのが面白くなった /小野美由紀
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kindolを買ってさぁ読書ライフ!って思っていたのですが、スマホ依存が治りません。どうしたものか。
メンヘラになったときはメンヘラにとことんひたるのが、自分のなかの気持ちを整理するのにいいので、メンヘラの本を読んでいました。
「弱さは強さの裏側だ。 弱いから、脆いから、周りの人と一緒に生きて、強さを生み出せるんだ。弱さの発する白熱灯のような、ほの白い光のあたたかさを、手のひらで感じられるだけの感応力。それがあれば、私たちはいくらでも人と、つながれる。 だから、弱くてもいい。弱さは悪ではない。 弱さは強さの証。自分の弱さを許容することで、その裏側にある自分の強さを発見することができる。Read more at location 1471」
数学ガールの秘密ノート/整数で遊ぼう /結城浩
研究室から。手を動かさないとわからないなぁ。
犬のココロをよむ――伴侶動物学からわかること /菊水健史 永澤美保
犬のココロをよむ――伴侶動物学からわかること (岩波科学ライブラリー)
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これだけは知っておきたい数学ビギナーズマニュアル/佐藤文広
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フランツ・カフカ/「変身」
一ヶ月ぶりの更新。なぜかというと本を読まなかったからである。
なぜ本を読まなかったのかというと、図書館に行かなくなったからで、情報源がネットとSNSというまずい状態になっていた。このままでは頭が腐りそうだなと思ったので、勢いでkindolのpaper whiteを購入した。
なにが一番便利かと言われれば、ハイライト機能である。昔から付箋をつけて本を読むのが癖なのだが、付箋をつけても、その部分を書き写すのがとても面倒で、結局図書館でとって付箋はゴミ箱へ。また満員電車で読むので、付箋をいちいちつけていられなかった。ハイライト機能の登場によって、コピペでポイントをまとめたり残せたりできるのは便利である。また軽い。版権が切れたものは無料だったり図書館に返す手間はないし、いまのところは文句なしである。まだスマホをよく触ってしまうが、空いた時間は本を読んでいこうと思った。
一冊目に読んだ本は、カフカの「変身」
ベッドのなかにいたのでは、あれこれ考えたところで理にかなった結論に到達することはあるまい、とはっきりと気づいたのだった。Read more at location 85
春休みに入ったのでどうも寝てしまう。
カフカの変身は主人公のグレゴールがある日当然虫になってしまったところから始まる。
家族はその事実を受け止めることができず、悲嘆に暮れる。グレゴール自身は、虫になっても思考がはっきりとしていたが、うまく他人に伝えることができない。 妹がグレゴールの世話係になり、母と父は彼を見向きもしなくなった。
まずはじめに、家族から見て、彼が一人の人間ではなく、虫になってしまったところは、世話をしやすいように彼の部屋を空っぽにしてしまった場面だと思う。
それに、こんなことをしたら、まるで家具を片づけることによって、わたしたちがあの子のよくなることをまったくあきらめてしまい、あの子のことをかまわずにほったらかしにしているということを見せつけるようなものじゃないかい? わたしたちが部屋をすっかり以前のままにしておくように努め、グレゴールがまたわたしたちのところへもどってきたときに、なんにも変っていないことを見て、それだけたやすくそれまでのことが忘れられるようにしておくことがいちばんいい、とわたしは思う。Read more at location 643
という父親の台詞にグレゴールも頷いた。やめてくれとできる限りの抵抗をするが、部屋は空っぽに。
しかし自分の人間的な過去を同時にたちまちすっかり忘れてしまうのではなかろうか。今はすでにすっかり忘れようとしているのではないだろうか。そして、長いあいだ聞かなかった母親の声だけがやっと彼の心を正気にもどしたのではあるまいか。何一つ取りのけてはならない。みんなもとのままに残されていなければならない。家具が自分の状態の上に及ぼすいい影響というものがなくてはならない。そして、たとい家具が意味もなくはい廻るじゃまになっても、それは損害ではなくて、大きな利益なのだ。 Read more at location 654
このへんから、この物語が、現代の介護問題のようだな、と思った。アルツハイマーや、認知症、事故によって突然介護が必要になった人もこの問題に直面すると思ったからである。
この働きすぎて疲れきった家庭で、だれがどうしても必要やむをえないこと以上にグレゴールなんかに気を使うひまをもっているだろうか。Read more at location 826 •
グレゴールは一家をささえるために働いていた。その彼が虫になってしまったので、収入は減ったはずだ。
もうこれまでだわ。あなたがたはおそらくわからないのでしょうが、わたしにはわかります。こんな怪物の前で兄さんの名前なんかいいたくはないわ。だから、わたしたちはこいつから離れようとしなければならない、とだけいうわ。こいつの世話をし、我慢するために、人間としてできるだけのことをやろうとしてきたじゃないの。だれだって少しでもわたしたちを非難することはできないと思うわ」Read more at location 1015
「こいつはお父さんとお母さんとを殺してしまうわ。そうなることがわたしにはわかっています。わたしたちみんなのように、こんなに苦労して働かなければならないときには、その上に、家でもこんな永久につづく悩みなんか辛抱できないわ。わたしももう辛抱できないわ」Read more at location 1025 •
この辺の妹の台詞、家族の中でも避けられていた話題をばっさりと切り込んでいる。
こんな虫に自分たちの生活を壊されてたまるか、という気迫。
それをグレゴールの前で言ってしまう。そしてグレゴールはものを食べなくなっていった。
まもなく、自分がもうまったく動くことができなくなっていることを発見した。それもふしぎには思わなかった。むしろ、自分がこれまで実際にこのかぼそい脚で身体をひきずってこられたことが不自然に思われた。ともかく割合に身体の工合はいいように感じられた。なるほど身体全体に痛みがあったが、それもだんだん弱くなっていき、最後にはすっかり消えるだろう、と思われた。柔かいほこりにすっかり被われている背中の腐ったリンゴと炎症を起こしている部分とは、ほとんど感じられなかった。感動と愛情とをこめて家族のことを考えた。自分が消えてしまわなければならないのだという彼の考えは、おそらく妹の意見よりももっと決定的なものだった。Read more at location 1071 •
結果的に自ら餓死状態になってしまった。動くことができないだけなのに、妹だったかな、もう虫は死んだのだと言って、グレゴールを放って引っ越しをする。
こんな話をしているあいだに、ザムザ夫妻はだんだんと元気になっていく娘をながめながら、頰の色も蒼ざめたほどのあらゆる心労にもかかわらず、彼女が最近ではめっきりと美しくふくよかな娘になっていた、ということにほとんど同時に気づいたのだった。Read more at location 1166
この最後の一文で、ひとりでは生きられない人は死ぬしかないのかなと思った。一人の介護が家族全体を不幸にしていった話のように感じる。しかし、もし家族の中で誰か彼に寄り添える人がいたならば。もし部屋をそのままにしていたならば。もし、人間に戻れたらならば。グレコールはどんな生き方をしたのだろうか。
このブログを書こうと思ったのは、このニュースを読んだからだ。そして、このコメントを読んだからだ。
介護疲れで妻殺害容疑の夫 逮捕後に食事拒み続け死亡 NHKニュース
断食餓死を貫徹するほど意思の強い人でも耐えられない認知症の家族の介護
2016/02/23 20:48
断食餓死を貫徹するほど意思の強い人でも耐えられない認知症の家族の介護 - ikihaji_kun のコメント / はてなブックマーク
私はこのおじいさんに、話を聞きたかったと思った。おばあさんとのなれそめとか、どんな料理がすきだったとか、どこにふたりでいったのかとか、そんなとりとめもないはなしを。多少なりともその人に対する愛がなければ、介護などやっていけないと感じるからだ。このニュースからすると、グレゴールを死なせて、離れるという妹の選択が、自分の身を、人生を守るという点においては、正しいように感じてしまった。