読書日記

しがない元・情報大学院生女子、現・企業研究者の日記

十月十八日 (火) 記憶


 大学に行く日なのに深夜二時まで起きてしまった。案の定寝坊して、慌てて支度をし、大学に向かう。大学へ向かう道沿いには金木犀の花が咲いていた。鼻腔をくすぐる独特な甘い香りに、思わず目線を上げる。儚げな金木犀の花はひとつひとつは可憐なのに、その甘い香りで存在感を醸し出す。


 子どもの頃、金木犀の花を集めて香水にしたい、と思っていた。小学校低学年ぐらいのときだったと思う。落ちた金木犀の花を拾い集めて袋に入れる。もしかしたら、木を揺すって花を落としたかもしれない。金木犀の花たちが入った袋に水を加えて揉む。しかし、いくら揉んでもその香りがその水に移らない。ただ花の繊維が細かくなったものと水にしかならなかった。そのとき、私は「あの花の香りは、木々に咲いてこその香りなのだ」ということに気づき、諦めた。
 そんな記憶に引きづられて、金木犀の香水の作り方を調べてみた。金木犀の花を乾燥させ、無水エタノールにつけることで、花の香りが液体に移り香水を作れるらしい。無水エタノールは、ほぼ水を含まない純度の高いエタノールだ。あっという間に気化してしまうので、香水によく用いられる。大人になった私は、きっと金木犀の花から香水を作ることはできる。けれども、作らないでおこうかな。記憶の中にある金木犀の香りは甘美で、あのときあの瞬間に感じた香りにはかなわないような気がした。日記は不思議で、今日見た光景と昔の記憶を、まっすぐ線で結んでくれる。その日その日をなんとか乗り越えて生きてる私は、そういうふとした瞬間に現れる昔の記憶に救われているような気がした。


 研究室ではデータの整備の相談をしたり、マシンを回してモデリングしたりした。でも論文のことが頭に残って離れない、ぼやりとした輪郭で持って、脳の容量を圧迫している。実質マルチタスクのようになり、無為に時間が過ぎてしまった。
 十七時ごろに大学の生協で夕ご飯を食べる。豚汁とサバのフライ、ご飯とフルーツヨーグルト。新人レジだったらしく、最後に組合員証のことを伝えら、最初からレジを入れて直し始めた。そうしているうちに、どんどん列が長くなっていった。それに気づいた大学生バイトが、慌ててレジを開けていた。私だったら目線に耐えられず、すぐ助けを呼んでしまうけど、彼女は何言わずにこなしており、堂々とした態度が羨ましかった。フルーツヨーグルトはg単位の単価が高いのか、すこし高くついてしまった。それでも六五〇円とかだから、びっくりする。そのうち二百円がフルーツヨーグルト代なので、やっぱり高いわ。生協でご飯を食べた後は、シェアオフィスで作業の続きをした。RやPythonを使って検定をかけた。帰りの電車は座れたので、パソコンを開いて、いつも忘れてしまう統計用語の意味をたどった。きっと変なアラサー女にみえているだろうなと思いつつ、それよりも結果が気になって仕方がなかった。信頼区間95%で有意差が出てほっとしていると、最寄り駅についた。早くこの国際会議論文を脱稿したい。