読書日記

しがない元・情報大学院生女子、現・企業研究者の日記

七月xx日 千回の負け

日記を書きつつ、競技かるた歴を振り返ってる懐古厨な日記です。あんまり前向きじゃないです。

 

七月xx日 

未来日記

論文を書かないといけないという気持ちがあるが、競技かるたの合宿を普通に楽しんでいる自分がいる。


現実日記

 朝起きたら8時半だった。合宿なんだからそれは当たり前なのだが、起きたら人がいるのが不思議で、目が開いてない状態で昨日の食べかけのお菓子や、お酒の缶などを片づける。普段なら自分の身なりだったり、誰かの地雷を気にするのだけど、ここまできたらどうでも良くなっていた。もうすっぴんも見られているし。一軒家パワーはすごい。

 一通り片付けて、コンタクトレンズを入れて、化粧をした。顔がパンパンだろうなとか思いつつ、笑顔の作り方も忘れて、家のオーナーさんに写真を撮ってもらう。こんな大学生みたいなこと、大学生の時にやっておきたかった。今言っても仕方ないけれど。そこから公民館に移動してかるたを一試合取った。相手はB級の後輩の女の子だった。途中から相手がいないような、そんか感覚になって、昔を振り返りながら、一枚一枚取っていた。

 

✴︎✴︎✴︎

 競技かるたの出会いは十六才の秋だった。四月から文芸部で物書きをしていたが、部員の多くが見ているアニメや漫画、ラノベのコンテンツを家で見る術がなく、どこか別の世界のように感じていた。そのコンテンツの話ができないから、部室のプレハブ小屋で4STEPという解説書のない数学の問題集を解いていた。涼宮ハルヒというものが流行ってるらしいと、親の目を盗んで深夜にアニメを見たけれど、毎回毎回同じシーンが繰り返されていたので諦めた。*1

 同じ時期の八月、文芸部に迷い込んだ女の子がいた。小さくて可憐なその子は競技かるたをやっていた。見た目とのギャップにびっくりした。同学年の部員が二人しかいなくて、先輩が引退したら団体戦に出られなくなる。そして、団体戦に出るためにあと一人必要なのだと。後から気づくのだが、競技かるたの団体戦は通常は五人チームで、三人だと三人とも勝たなければ団体戦としての勝利にならない。三人は必要最小限、その出場資格がすらない弱小チームだった。

 競技かるたのルールを聞き、早く取れる札と音を何文字も待たないと取れない札があるということはわかった。競争など向いてない性格なのは自分でも知っていた。競技に惹かれてたのではなくて、彼女の必死さで入会してしまった。とにかく近江神宮という場所でやってる団体戦に出たいらしい。

 三人で強くなると決めて、練習をし始めた。札の決まり字を覚え、札の払い方を学び、札の定位置を決める。試合をし、札を飛ばして、元に戻して、時々札を相手にあげて、それの繰り返し。盤面には五十枚の音が違う札があるだけ、二十五枚取れば勝てるというそのシンプルなゲーム。ただそれだけだった。

 三年の先輩が強く、県大会の代表になって、彼女の言っていた近江神宮で行われる団体戦に出られた。同期の二人だけが正規メンバー入りし、私は補欠でその試合を見ていた。二人は順調に強くなって昇段していくけど、私はとにかく勝てなかった。お手つきを繰り返して、二十五枚とっても勝てないゲームに自らしてしまう。そんなこんなで、高ニの春にはやめようと思っていた。転機が欲しくて生徒会に立候補したら、ラッキーで入れそうになってしまった。顧問の先生に引き止められて、進路指導室で相談会をした。

 先輩が引退して、かるた部で三人しかいなかった。それが致命的だった。部費がないので自動読み上げ機(ありあけ)がなく、毎日一人が詠んでいた。二人が取って、時々先生も混ざるみたいな日々。三人以下というのは、練習が成立しなくなることを意味する。どちらを取るか?と顧問の先生に聞かれた時、生徒会は辞退した。

 今から考えたら生徒会で仕事していた方が楽しかったのかもしれない。生徒会の仕事なら、負けの意味を考える必要などないし。競技というものは、良い意味でも悪い意味でも勝敗がある。二人の部員をスカウトし、なんとか五本揃えた高三の五月、県大会の決勝戦は負けた。私が戦犯だった。軽微なミスを繰り返して、十五枚差で負けた。そして、親に言われてその試合で部活を辞めた。*2

 大学に入ってもう一度かるたを頑張りたくて、大学のかるた部に入会した。二年経ってやっと初段が取れたが、勝率が一割以下なのは変わらなかった。みんながとんとんと昇段していき、迷ってるうちに進路変更と大学院進学が始まり、なんとなく選手登録をやめ、県協をやめ、サークルを卒業し、かるたをやめた。

 一番若くて活力のある時期に、週に十試合、年に一二〇試合を十年弱続けて、私は九割負けている。その結果を記録したノートだけが手元に残った。

 

***

 あれからもう数年が経って、今日、またかるたをとっている。一応十年もやっていると、決まり字も定位置も覚えていた。それを思い出す作業は、まるで昔の友達に会うようだった。いろんな代表から漏れた日、決勝戦で負けた日、何気ない練習でかるたで、ボコボコにされた日…….、思い出したのは、自分が負けた時のことばかりだった。

 もしあの小さな彼女に誘われなかったら、諦めて生徒会に入ってたら、この1000回以上の負けを知らなくても良かったような気がする。手を出してミスをするくらいなら、手を出さなくても良いのではないか、中途半端な取り方をして、相手と言い争うなら*3、座ってるだけの方がいいのではないか。そうやって最後は覚悟を持ってやめたのに、またかるたを取ってるのはなぜなんだろう。好きな「ゆうされば」の音が聞こえて、綺麗に払ったとき、この競技を好きな理由がわからないと思った。かるたよりも、文芸部でやっていた創作活動を続けていた方がいろんなことを書き残せたし、中学生までやってたピアノも続けていたらもっと難しい曲が弾けたはずだった。手を抜かれてることを感じたり、同期が大会のトーナメントに残っていて帰れず控え室で4STEPを解いたことも思い出した。そんなこと、多分経験しなくて良い悔しさのはずだ。形に残らなかった負けの意味を今も探している。

 

 今回も十五枚くらいで負けた。いくらでもキッパリと辞めるタイミングはあったのに、またここに戻ってきてしまった。涼宮ハルヒエンドレスエイトかよ。三十歳になってしまった今、これから何に時間を割くのが良いのだろう....という昔を振り返りながら、筋肉痛に苦しんでます。

*1:後から知るが、涼宮ハルヒエンドレスエイトのクールだった

*2:大学受験の結果はどうだったかというと、大学受験を理由に五月に部活を引退したのに、志望大学全部すべるというアホなオチだった。大学受験を理由に当時の片思いも片思いのままにしてしまって後悔してるので、告白はちゃんとした方がいいですね。

*3:競技かるたでは、相手が取ったか自分が取ったかで意見が合わなかった時、話し合いで取りをきめる

七月xx日 晴れ


 未来日記
 朝から市役所に行って〇〇の手続きをする。明後日の資料ができていないので作成する。
 現実日記
 昨日から怒涛にプライベートの予定を処理して行っている。今日もその一環で、市役所の用事を片付けた。自分の中でできてないないと思うことが増えすぎると精神的に参ってしまうらしい。そして、人と関わるのを諦めてしまうらしい。会社のPCにログインするものの、半休をとったみたいな形になった。あとはシンクを片付ければ、部屋を掃除したら終わりである。市役所の方に「暑いので気をつけてくださいね」と言われたのが、何気に嬉しかった。会社の野良Slackを消して、移動中に日記を書く。月日会のメンバーが日に日に増えている気がする。もし、電子冊子作成を手作業でやってるなら負担を気にしてしまい、早めに投稿するようにしている。少しでもプログラムを書けると自動化しようかな、とか思うけど、みんながみんなコードが書けるわけではない。また、何か運営することの大変さを自分なりによく知っていて、たとえ 会費を払っていたとしても心配してしまう。
 明後日、また共同研究先の教授と打ち合わせなのだけど、その資料が全くできていなかった。なのに気が重くて他の余計な仕事からやってしまった。
 契約の確認をして上司に聞いたら無愛想な返答、委託先の会社との調整も私がするのか、という気持ちになった。私の仕事がどんどん増えていく。
 余計な仕事が終わって手をつけたものの、計算結果が合わず、目の前が真っ白になった。
 そのコードは委託先の方に依頼したコードだったけど、同じ実験条件にしても精度が0.1ほど合わない。速くなる心拍音と、最終退出を促す蛍の光
 明日の朝に資料合わせないと、きっと明後日に間に合わない。どうしたものか。プレッシャーが毎日かかっているけど、それが当たり前になって、ずっと大変になってしまった。ストレステストがずっと続いている。少し耳鳴りがして、電車を乗り過ごした。とりあえず日記を書いて、最寄駅に戻った。今週分の日記を書く時間だけは仕事を忘れさせてほしい。全部書いたら、またやるかー……。

六月xx日

 六月xx日 
 未来日記
 特許の修正を完了する。

 

 現実日記
 普通に寝坊した。今日は社内の研究発表会だったので、早くおきたかったなぁと思いながら起床即ログインした。会社の同僚の発表を聞きながら、特許の明細を直した。フローチャートが二つくらい抜けていて、国内会議の原稿レベルで書き込んだ。これなら弁理士さんに伝わるだろうか、あとは適当にやってもらいたいと思ったり、思わなかったり。
 人の発表を聞いていると人間性が出てくるな、と思う。例えそれがロジックの塊である研究発表であっても、だ。研究の担当者として、自らの手で進められる研究は限りがある。その対象に日常生活のほとんどを捧げて、時々思い出したり、これと似てるかも、これは特許になるかも、とか想いながら生活をする。仕事をしていなくても、ずっとそばにあるものが研究対象だと思う。でも、それをどう伝えるのかって、大事だよなぁと思う。人の振り見て我が振り直せで、今回は対面発表に慣れてない人が多い印象を持った。今度の学会の前に対面発表の練習しようと思った。来月の頭だからもうぼちぼちやらないといけない。自信がありすぎても、研究対象への愛が溢れすぎてなんか質問しづらいし、謙虚さを持ち合わせながら、発表したいと思った。
 久々に飲み会だった。同じチームの人が移動するのでお花を。花言葉が良いガーベラとアストロメリアを選んだら、黄色と白の儚げな花束になった。
 飲み会でご飯が普通に美味しかったのが嬉しかった。二次会でうだうだ飲んだのも久々だった。たまたま結婚の話になって、一人で生きる覚悟も決めてる話をしたり、一ヶ月だけ婚活して辞めた話とかしてしまった。帰り道に唯一独身の同僚の背中を指して、「こんな人もいるよ」とも言われて、これってなんかゲームやドラマで見たことあるシーンだ!!!!!ってなった。が、仕事で色恋沙汰みたいな危険工程をしたくないので、即条件から除外しちゃった。会社だとルールがあるけれど、家の中になったらルールがなくなってどうなるかわからないし。こういう話をさらっとする異動してしまう先輩があざといなーと思いつつ、今の組織でそういうふうな余裕のある大人っていないよなぁ、となった。
 いろんな将来の話をしながら、研究がもしできなくなってもコードを書いていたいな……と思った。

 

アストロメリアの花言葉は未来への憧れ、私の好きな花。

 

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怠惰な企業研究者の一日

 

この方のブログを読んで面白かったので、私も一日の過ごし方を書く。怠惰な企業研究者の一日。

兼業漫画家の一日の生活 - 漫画皇国

 

9:30 起きる、基礎体温と体重測ってオレンジジュースを飲む

10:00 会社PCログイン、ご飯を食べつつ、事務作業、メール返信など

12:00 職場に移動しながら日記を書く

13:00 職場の警備員さんに挨拶し、職場に着く、プログラミングをする。主に机上実験のコードを書いてることが多い。適宜打ち合わせに参加

15:00 研究発表の資料作成など

17:00 この辺で軽食、論文作成など

20:00 回した実験がうまくいってるか確認する

22:00 悪あがきでのこりの仕事をする、気づいたら22時になっている(諦めモードになる。

帰りながら日記を書いたり本読んだり(電車、みんなスマホ触ってて別のことがしたくなる

23:00 家帰って家事、ゲーム、ご飯、風呂

26:00 いつのまにか26時になっていて慌てて寝る。

 

このような日を過ごしてやり残してることは以下

・論文調査の時間が十分に取れていない

・自分の勉強の時間が取れていない

同人活動(小説)の時間が取れていない

・ピアノの練習の時間が取れていない

・スケジュールがギリギリになりがち

 

とまぁ、起きてる時間80%(計算してない)くらい仕事してるような一日を過ごしている。本ブログは、現実日記と未来日記を交互に書く構成である。未来(理想)を書くなら以下かなぁ。

 

5:30 起きる、基礎体温と体重測ってオレンジジュースを飲む。資格の勉強をする。1時間15分

6:45 化粧など身支度

7:30 出社する。小説を書く。

8:30 警備員さんに挨拶する。勤務開始、論文執筆をする。(3.5時間)

12:00 お昼食べつつ英語の勉強をする (30分)

13:00 勤務再開、コーディングとか適宜打ち合わせに出ている。

15:00 コーディング終わり、実験回しつつ、雑務、事務作業やメール返信

16:00 今日投稿されたArxiv(研究版pixiv)に目を通す。(30分)、論文一本真面目に読む(60分)

17:30 軽食を取る、お散歩でもする。

18:00 資料作成

19:30 退勤しつつ資格の勉強する、みんなスマホ触ってて(略)

(ここまでで、9時間ほど労働、1.5時間残業)

20:30 ご飯やらお風呂やらゲームする

21:30 勉強するかピアノを弾く

22:30 勉強して、スマホを遠くに置いて寝たい。7時間睡眠

 

こんな生活にずっと憧れてるけど全然できない、毎日寝坊してるから。いつになったら満足行く日々が送れるんだろうなー。

 

六月四日、五日、六日

六月四日 日曜日
 未来日記
 ノーベル賞受賞者江崎玲於奈博士と、吉野彰博士の講演会を〇〇大学に聞きに行く。
 現実日記
 昼ごろから〇〇大学に向かって移動。新聞社主催のノーベル賞受賞者の講演会だった。新聞の懸賞で当たり、入場券をゲットした私は、おしゃれをして大学まで行った。帰りに渋谷に寄って化粧品屋さんに行って、プロにメイクを教えてもらう予定で、私にはしては港区女子みたいな休日の過ごし方だった。カラーコンタクトをつけて、お気に入りの服をきた。
 講演会の参加者は高校生が大半だった。二階席からよく見えた。私が高校生の頃は、まだ文系だったので、一応、研究でご飯食べてるなんて夢にも思わなかった。主役の江崎玲於奈博士は、来ていなかった。だいぶお年を召しているから、仕方がない。でも高校生に向けてメッセージや高校生からの質問を、司会者が代読する形で答えていた。ChatGBTについてどう思うか?という話について、「新しい技術は使うべし」みたいな回答をしていて、笑ってしまった。いいものは使っていくべきだもんなぁ。江崎博士が来れなかったとき用のビデオメッセージの中で、天職とは何か、自分が人生の中で何を成し遂げるべきか考えよ、というものあったのが印象的だった。人生は自分が主人公なんだから、とかなんとか。それを聞いたときに、自分の今の生活が周りに振り回されていて、主人公感が少ないな、と思った。目先の打ち合わせや締め切りに合わせて動く日々で、やりたいことができていない日々。もっと勉強したい。主人公になるってどうやったらなれるのかな、と考えてしまった。あと、有名だが、「してはいけない五箇条」の紹介もあった。下記に引用の形で記す。
――――――――――
 第一に、今までの行き掛りにとらわれてはいけません。
しがらみという呪縛を解かない限り、思いきった創造性の発揮など望めません。
  
第二に、教えはいくら受けて結構ですが、大先生にのめり込んではいけません。
のめり込みますと権威の呪縛は避けられず、自由奔放な若さを失い、自分の創造力も萎縮します。

第三に、無用ながらくた情報に惑わされてはいけません。
約二十ワットで動作するわれわれの限定された頭脳の能力を配慮し、選択された必須の情報だけを処理します。

第四に、自分の主張をつらぬくためには戦うことを避けてはいけません。

第五に、子どものようなあくなき好奇心と初々しい感性を失っていけません。 
日本経済新聞(2007.1/1付朝刊)「私の履歴書」より
――――――――
 第三から五の項目が自分に響いた。がらくた情報は、Twitterはほぼ平日は見ないようにできたけど、YouTubeをどうしても見てしまう。講義の動画とかを見るべきなのに、だらだらと流し見てしまう。第四の人と戦うことが怖くて、誰にでもいい顔をしてしまう。第五は目先の興味に惹かれて短絡的な行動をしてしまう。資格の勉強とかしたいのに。
 実際に江崎博士の姿を見ることはできなかったけれど、考えの片鱗に触れるいいきっかけだった。その日、同じく吉野彰博士も来られていた。二〇一九年のノーベル賞受賞者である。吉野博士ももう七十五歳なのに、四十分間立ち続けながら発表を行っていた。吉野博士が企業研究者であることは知らなかった。私と同じように、実用化の壁の話をしていて、企業研究者あるあるなのだなぁと思った。吉野博士にも、私立の賢こそうな高校生が質問していたけれど、「自分で判断することが大事」とくり返し述べられていた。例え、ChatGBTが世界を支配しても、研究を進めていくか、先行研究と何が違うかは自分で決めないといけない。自分で決めて、自分で責任を取ることの重要性を、繰り返し繰り返し言っていた。
 講演会が終わった頃には、自分がいかに幼稚な考えで研究に向かい合っていたかを痛感した。もうやるしかないのだ。上の人の判断に悩んだり、周りの人間関係なんて知らない。私が事実を判断して、進めていくしかないのだ。
 帰りに寄った渋谷の街は人でいっぱいで、1年ぶりに行った化粧品屋さんは店員さんに勧められるがままに買ってしまった。プロの手によって上げられたまつ毛が、自分であげるよりも高く上がっていた。私って案外イケるのかもしれない、という謎の気持ちになり、ついつい多く買ってしまったのだけど、それでもいいや、どうせ使う先ないし。

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 六月五日 月曜日 晴れ
 未来日記
 なし
 現実日記
 論文用に実験結果を再実験する必要が出てきて、ブンブンにマシンを回した。連日、二十二時まで働いてしまう。もう一つの研究の打ち合わせが近くて、あれこれ準備した。もう一人の人が進捗がなさそうなので、また私が分析しないといけないようだ。
 
 六月六日 火曜日 曇りのち雨
 未来日記
 論文を書く、知財に連絡する。

 現実日記
 実験を回し切った。コードのリファクタリングをしていると、進んだ気になるけど、実際は何も進んでない。論文を書かないといけない。半年前から書かないとと言ってるのに進んでないのは終わってる。日記みたいに毎日書かなければ。統計情報の集計終わり、カイ二乗検定終わり、机上実験終わり。
 今日は雲が多くて寒い日だった。寒いと会社のワークスペースでつぶやくと、「風邪ひかないでね」と会社の人に言われた。一人暮らしだとこういう言葉を言われることがなくて、じんとしてしまった。こんなことば、最近親にもあんまり言われないのにな。

 

 

五月二十九日 月曜日 曇りのち雨

五月二十九日 月曜日 曇りのち雨
未来日記
 コンカツをやめたので、医療脱毛に行く。論文二のイントロダクションを書く。
 ホームページの作成の準備をする。

現実日記
 十二時頃には寝てしまったけれど、今日も昼頃まで寝ていた。気づけば三日で三十六時間も寝ていることになっていた。仕事と私個人の時間とのバランスをどうするかを考えている。働いて、物事が進んでいれば良いのだけれど、進んでいなくて、むしろ後退しているくらいだった。趣味の活動もうまくできず、フォロワーもそんなに増えず、イベントをすると言ったものの、なかなかうまいアイデアがなく、と言う感じである。とりあえず、生協でたくさんの野菜を受け取った。それだけでも精神的に安定する。適当な化粧をして、部屋を出た。コンカツはもうやめた。払うはずだった月会費の一万五千円が自由になった。男性の連絡先などはもういらない。実益的なことに使おうと思って、ずっとやりたかったワキの医療脱毛を受けに行った。
 美容系の医療施術をメインに取り扱っている医院を選んだ。受付のお姉さんのアイラインが長めで、おしゃれな雰囲気だった。諸々の説明を受けて契約書にサインをする。九千八百円で五回照射、一ヶ月半ごとに通って毛が無くなることの方が、男性の連絡先を得ることよりも有益な気がしてしまう。
 お医者さんの診療を経て脱毛する。既往歴を話していると、関西弁がぽろっと出た。
「関西の方なんですか?」
「そうなんです、奈良出身なんです。お笑い芸人さんのラジオをたくさん聴いていて、もう関西弁が治らなくて。」
「どなたのラジオとか聞きますか?」
かまいたちさんとか。山内さんが奈良教育大出身で、勝手に親近感が湧いていて。」
「濱家さんの途中でズルをする麻雀のYouTubeの動画が面白いですよ」
「そうなんですか?、あとで見てみます。」
 途中で医療脱毛の問診でなぜかまいたちYouTubeの話をしてるのか、不思議になってしまった。その後施術を受けたが、ちょっとだけ痛いくらいだった。授業で基盤を作っていたときに、はんだごてで髪の毛を焼いたときの匂いがした。話しながら気を紛らわしていたら、いつのまにか終わっていた。これが九千八百円×五回でワキの毛がなくなるのか。月に二人の男性の紹介よりも有益に感じてしまった。
 帰りはうろうろとカフェに行ったり、図書館に行ってぼんやりしたりした。二次創作のアカウントの対応などもしたので、割と偉い方だと思った。ちゃんと感情をフラットにして対応したい。ひとつひとつを大事にしたくて、時々逃げてしまう。よくないよね。図書館で今週分の日記を書いた。

五月十八日 木曜日 晴れ ダウ90000「また点滅に戻るだけ」の感想

五月十八日 木曜日 晴れ
 ダウ90000の公演「また点滅に戻るだけ」のネタバレをしています。


 未来日記
 早く起きて大学に行く。初めて行くゼミなので緊張する。
 現実日記
 九時に起きて、大学に行く準備をした。会社の定例を聞きながら化粧をしなければ間に合わなかった。カメラがオフになってること、カメラが隠されていることを確認した上で実施した。
 夜はダウ90000の講演を観劇した。二月に知り合いがチケットを手配してくれた。平日の公演だったのであたったのだった。本多劇場に来るのは二回目だった。前は劇団新感線かなにかの演劇に乃木坂の清宮さんが出るので見に行ったのだった。E席だったので5メートル先に舞台があるような席で、演者の手が届きそうで、リアルだった。本多劇場は、劇場内に電波が入らないようになっている。それは意図してのことなのか、そうでないのかはわからないけれど、その環境がすきだ。電波が届かない場所、と言うだけで現実とは乖離した世界を感じてしまう。いい意味でも悪い意味でも、私はパソコン一つで働けるので、よりそう思うのかもしれない。
 舞台はゲームセンターでプリクラ機が二台、あった。開演のブザーが鳴り響くとプリクラ機の下に脚が見えた。楽しげにプリクラを撮るシーンから始まる。
 この舞台は、青春群像劇のようでもあり、コントでもありミステリーでもあった。いろんな要素がおもちゃ箱のように乱雑に入っているように見えるが、実はそうではない。ひとつひとつ取り出して綺麗に並べると、点と点が繋がって、一つの線になる。線が糸のように絡まったりしながら、最後は紐が解けて、観客に安心感を与えていて、上手いなぁと思った。

 物語は、芸能活動をやっていた女性が、プライベートの恋人とのキスプリクラ画像の流出によって、事務所を辞めさせられたことから始まる。大型連休の帰省で、ゲームセンターピエロに集まった九人?は、それを流出させた犯人を探し始める。そのプリクラを持っているのは、地元(所沢?)の知り合いでしか考えられない。誰が流出させたのだろう、もしこの中で流出させた人がいるとしてどんな目的で?観客は日常の中で潜む小さなミステリーを見ることとなる。その中に含まれる日常のあるあるネタと、私の高校時代もそうだったなーという気持ちとが、めちゃくちゃ面白くて笑ってしまった。
 猫より可愛いという校内で流行った謎の流行語、誰かと誰かが付き合って相関図がめちゃくちゃ、ケータイの裏側で小さな東京作りすぎ、Air dropの3番目以内にお前らいるだろう、携帯の充電器レンタルサービスで借りれるアレを使ってるやつに、碌なのはいない、プリクラでキスする奴はださい、自分製造機、手垢のついた男は嫌、小さな事務所の名前が絶妙にダサい、プリクラの小さいハサミのチェーン、太平洋ベルトからも外れてる、どうやったらその仕事できるの……。
 ストーリーの中に散りばめられる日常のあるあるネタがすごく面白かった。それを私と同世代の人々が話すので、よりリアルに感じた。プリクラのハサミって、チェーンがついていて、びゅいーんってなるよねー、みたいな、同級生と昔話をする感覚。大昔にある人のプリクラの流出の中に知り合いが写っていたこともあって、よりリアルに感じてしまった。
 きっと、もっと派手な舞台にすることだってできたはずだ。なのに、蓮見さんが選んだ舞台が地元のゲーセンで、プリクラの話だっていうことに驚く。結局、悪意なくプリクラを友人が事務所に送っていたことがわかり、プリクラは事務所の先輩のスキャンダルの揉み消しに使われたことに気づく。芸能活動をしていた彼女に対して、六年付き合っていた元彼がそんな姿を見た上で、厳しい言葉を告げながらも、もう一度やり直そうと告白する。
 劇中で何度もプリクラを撮るのだが、最後のプリクラにはその二人だけがいない。なぜならほかの皆でプリクラを撮っている間、二人で話していたから。不器用な告白が妙にリアルで、そこでも笑えるのが脚本のリアルさとすごさだと思う。残りの六人?が撮ったプリクラを元彼と芸能活動をしていた女の子が見て、「二人だけがいないことを知ってるのはこのメンバーだけ、そういう告白ができるといいね」(記憶が曖昧……もっといいセリフを言っていた気がします)
 最後のシーンの後、その女性がぱっと表情を変えて役から元に戻ったのが印象的だった。
 見た後は、感情が複雑だった。男女の恋愛の気味が悪い部分も描かれていたので少しゾッとしたり、伏線回収が綺麗だったり、リアルすぎて複雑な気分になった。あと、若干悔しい気持ちもあった。
 
 話が変わるが、Creapy nutsの曲に「サントラ」という曲がある。サントラは、冒頭にいろんな仕事を羅列する歌詞があるのだけど、この演劇は「いくつもの言の葉を紡ぎやっと一つ伝わる仕事」でもあるし、「言葉すら不要 目の動き一つ全て伝えてしまう仕事」はそうだし、「見たお前が勝手に重ねる仕事」「ヒトの感情以外は何一つ生み出さぬ仕事」でもあるな、などと思った。

 私の仕事はロジックの塊で、特許や論文にしかまだできてなくて、絶対に人の感情に影響を与える仕事ではない。たぶん、私が不慮の事故で亡くなったら、私が知ったことは無かったことになると思う。そして実際、学生時代に無かったことにされたこともある。この演劇を通して感じ考えたことは、自分が解明した事実をちゃんと世に出して、私がいなくなってもよいようにしたいな、ということだった。感情を揺らすことはできないかもしれないけれど、もしかしたら似た研究をしてる人の参考になるかもしれない。子供を残すような気持ちに近いのかもしれない。研究の詳細については日記に書けないけど、思いは残しておきたくて始めた日記だ。プリクラのハサミみたいに、何気ない記憶を残しておきたい、面白くはないかもしれないけれど。無関係の演劇からそんなことを考えたので書き記しておく。

 

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