読書日記

しがない元・情報大学院生女子、現・企業研究者の日記

六月四日、五日、六日

六月四日 日曜日
 未来日記
 ノーベル賞受賞者江崎玲於奈博士と、吉野彰博士の講演会を〇〇大学に聞きに行く。
 現実日記
 昼ごろから〇〇大学に向かって移動。新聞社主催のノーベル賞受賞者の講演会だった。新聞の懸賞で当たり、入場券をゲットした私は、おしゃれをして大学まで行った。帰りに渋谷に寄って化粧品屋さんに行って、プロにメイクを教えてもらう予定で、私にはしては港区女子みたいな休日の過ごし方だった。カラーコンタクトをつけて、お気に入りの服をきた。
 講演会の参加者は高校生が大半だった。二階席からよく見えた。私が高校生の頃は、まだ文系だったので、一応、研究でご飯食べてるなんて夢にも思わなかった。主役の江崎玲於奈博士は、来ていなかった。だいぶお年を召しているから、仕方がない。でも高校生に向けてメッセージや高校生からの質問を、司会者が代読する形で答えていた。ChatGBTについてどう思うか?という話について、「新しい技術は使うべし」みたいな回答をしていて、笑ってしまった。いいものは使っていくべきだもんなぁ。江崎博士が来れなかったとき用のビデオメッセージの中で、天職とは何か、自分が人生の中で何を成し遂げるべきか考えよ、というものあったのが印象的だった。人生は自分が主人公なんだから、とかなんとか。それを聞いたときに、自分の今の生活が周りに振り回されていて、主人公感が少ないな、と思った。目先の打ち合わせや締め切りに合わせて動く日々で、やりたいことができていない日々。もっと勉強したい。主人公になるってどうやったらなれるのかな、と考えてしまった。あと、有名だが、「してはいけない五箇条」の紹介もあった。下記に引用の形で記す。
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 第一に、今までの行き掛りにとらわれてはいけません。
しがらみという呪縛を解かない限り、思いきった創造性の発揮など望めません。
  
第二に、教えはいくら受けて結構ですが、大先生にのめり込んではいけません。
のめり込みますと権威の呪縛は避けられず、自由奔放な若さを失い、自分の創造力も萎縮します。

第三に、無用ながらくた情報に惑わされてはいけません。
約二十ワットで動作するわれわれの限定された頭脳の能力を配慮し、選択された必須の情報だけを処理します。

第四に、自分の主張をつらぬくためには戦うことを避けてはいけません。

第五に、子どものようなあくなき好奇心と初々しい感性を失っていけません。 
日本経済新聞(2007.1/1付朝刊)「私の履歴書」より
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 第三から五の項目が自分に響いた。がらくた情報は、Twitterはほぼ平日は見ないようにできたけど、YouTubeをどうしても見てしまう。講義の動画とかを見るべきなのに、だらだらと流し見てしまう。第四の人と戦うことが怖くて、誰にでもいい顔をしてしまう。第五は目先の興味に惹かれて短絡的な行動をしてしまう。資格の勉強とかしたいのに。
 実際に江崎博士の姿を見ることはできなかったけれど、考えの片鱗に触れるいいきっかけだった。その日、同じく吉野彰博士も来られていた。二〇一九年のノーベル賞受賞者である。吉野博士ももう七十五歳なのに、四十分間立ち続けながら発表を行っていた。吉野博士が企業研究者であることは知らなかった。私と同じように、実用化の壁の話をしていて、企業研究者あるあるなのだなぁと思った。吉野博士にも、私立の賢こそうな高校生が質問していたけれど、「自分で判断することが大事」とくり返し述べられていた。例え、ChatGBTが世界を支配しても、研究を進めていくか、先行研究と何が違うかは自分で決めないといけない。自分で決めて、自分で責任を取ることの重要性を、繰り返し繰り返し言っていた。
 講演会が終わった頃には、自分がいかに幼稚な考えで研究に向かい合っていたかを痛感した。もうやるしかないのだ。上の人の判断に悩んだり、周りの人間関係なんて知らない。私が事実を判断して、進めていくしかないのだ。
 帰りに寄った渋谷の街は人でいっぱいで、1年ぶりに行った化粧品屋さんは店員さんに勧められるがままに買ってしまった。プロの手によって上げられたまつ毛が、自分であげるよりも高く上がっていた。私って案外イケるのかもしれない、という謎の気持ちになり、ついつい多く買ってしまったのだけど、それでもいいや、どうせ使う先ないし。

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 六月五日 月曜日 晴れ
 未来日記
 なし
 現実日記
 論文用に実験結果を再実験する必要が出てきて、ブンブンにマシンを回した。連日、二十二時まで働いてしまう。もう一つの研究の打ち合わせが近くて、あれこれ準備した。もう一人の人が進捗がなさそうなので、また私が分析しないといけないようだ。
 
 六月六日 火曜日 曇りのち雨
 未来日記
 論文を書く、知財に連絡する。

 現実日記
 実験を回し切った。コードのリファクタリングをしていると、進んだ気になるけど、実際は何も進んでない。論文を書かないといけない。半年前から書かないとと言ってるのに進んでないのは終わってる。日記みたいに毎日書かなければ。統計情報の集計終わり、カイ二乗検定終わり、机上実験終わり。
 今日は雲が多くて寒い日だった。寒いと会社のワークスペースでつぶやくと、「風邪ひかないでね」と会社の人に言われた。一人暮らしだとこういう言葉を言われることがなくて、じんとしてしまった。こんなことば、最近親にもあんまり言われないのにな。